大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所姫路支部 昭和43年(ワ)178号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、昭和四三年六月二八日被告に送達された訴状に基き「被告は、原告に対し、金四、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四三年六月二九日から完済に至るまで年五分の率による金員を支払え。」

との判決を求める旨申し立て、

請求の原因として、次のとおり述べた。

「原告は、昭和三八年四月二七日午前一〇時四〇分ごろ、東京都港区芝高輪南町六二番地先道路を横断中、我妻伸一が日本ヂーゼル輸送株式会社の業務のため運転していた普通貨物自動車(埼臨七七五号)に跳ねられ、重傷を負つた。右衝突事故は、我妻伸一の運転上の過失に基因するものであり、そのため原告は、後記のとおりの損害を蒙つた。

右加害自動車は、被告会社の桶川工場で製造され事故当時埼玉県陸運局から臨時運行の許可を得ていたものである。こうした場合、当該許可を受けた被告は、道路運送車両法第三四条、第三五条、同法施行細則第二〇条ないし第二六条により臨時運行許可番号標示等の義務を負うのはもちろん、実際の運行が何人によつて行われたかを問うことなく、一切の運行上の責に任ずべきものである。民法第七一五条に基く使用者の損害賠償責任が生ずるためには、使用者と被傭者の間に必らずしも民法上の雇傭関係が存在することを必要とせず、その関係が一時的であつてもよく、また、事業の性質如何も問わないというのが判例である。それ故、被告は、本件事故によつて原告の蒙つた損害を当然賠償しなければならない。

原告が本件事故によつて蒙つた損害は、左記のとおりである。

(1)  東京船員保険病院関係で支払を余儀なくされた分(昭和三八年四月二七日から同年五月二四日まで)

入院治療費 七二、七一八円

付添料および交通費 三三、〇五〇円

氷代 六、六四〇円

謝礼 三二、〇〇〇円

以上小計 一三四、四〇八円

(2)  東京医科歯科大学附属病院関係で支払を余儀なくされた分(昭和三八年五月二四日から同年六月一五日まで)

入院治療費 七三、六二三円

付添料および交通費 一七、七七〇円

謝礼 二八、〇〇〇円

以上小計 一一九、三九三円

(3)  入院道具費、調理道具費、その他の雑費 一〇、〇〇〇円

(4)  原告は、医師であるので、医業継続のため昭和三八年五月から昭和四〇年三月まで代診医師を雇い入れたため要した費用 二、一五〇、〇〇〇円

(5)  精神上の損害 慰藉料一、五〇〇、〇〇〇円相当

(6)  後遺症の治療のため現に要しつつあり、かつ将来も要することが予想される治療費 一、〇〇〇、〇〇〇円

よつて、被告に対し、以上(1)ないし(5)の損害金の内金三、〇〇〇、〇〇〇円、(6)の損害金一、〇〇〇、〇〇〇円、ならびに、以上に対する訴状送達の日の翌日以降の民法所定律による遅延損害金の支払を請求する。」

被告は、答弁として、次のとおり述べた。

「原告主張の車体番号の車両が被告の製造にかかり、かつ、被告において臨時運行の許可を得たものであるとの事実は、これを否認する。その余の原告主張事実は、すべて知らない。また、かりに被告の製造にかかり、かつ、被告が臨時運行の許可を得た車両によつて原告主張のような事故が発生したとしても、被告において右事故に基く損害を賠償せねばならぬいわれはない。」

理由

原告の主張事実は、かりにそれが真実であるとしても、それだけでは被告が原告に対して損害賠償の責に任ずべき法律上の理由はない。よつて、右と反対の前提に立脚する原告の請求を失当として棄却することとし、なお、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 戸根住夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例